令和3年(2021) 入選作品

第80回 令和3年8月の募集

一般の部

小林 美成子 選

〇女生徒のカバンはみ出す祭笛    岩手県      ミカワエツコ 
○発掘の土器に番号鳥わたる     千葉県佐倉市   林 昭太郎 
○豊年や大河ゆつたり海に入る    千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 今朝の秋犬の歩幅にあはせけり   栃木県那須塩原市 垣内 孝雄 
 白線をコートに引けば小鳥来る   千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 新涼や小江戸佐原を舟めぐり    千葉県千葉市   玉井 令子 
 朝顔や古民家カフェの入口に    千葉県千葉市   玉井 令子 
 足跡の消えゆく砂丘雁渡し     千葉県松戸市   吉沢 美佐枝 
 秋暑し油まみれの旋盤工      神奈川県横浜市  龍野 ひろし 
 アベマリア流るる坂や長崎忌    岐阜県岐阜市   辻  雅宏 
 鷺草の飛び立つ構へ風立てり    静岡県富士宮市  遠藤 英二 
 稲の秋祖父に停年なき暮らし    三重県四日市市  後藤 允孝 
 藍いろの空となりけり門火焚く   三重県四日市市  後藤 允孝 
 開きそむ月下美人に息合はす    滋賀県大津市   中村 良一 
 罅入りし堂の柱や秋の風      広島県大竹市   西亀 
 手びねりの備前の猪口に新走り   愛媛県新居浜市  加島 一善 
 小鳥来る二人暮しに慣れし頃    福岡県福岡市   森内 梅子 

林 さわ子 選

○発掘の土器に番号鳥わたる     千葉県佐倉市   林 昭太郎 
○藍いろの空となりけり門火焚く   三重県四日市市  後藤 允孝 
○開きそむ月下美人に息合はす    滋賀県大津市   中村 良一 
 女生徒のカバンはみ出す祭笛    岩手県      ミカワエツコ 
 白線をコートに引けば小鳥来る   千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 豊年や大河ゆつたり海に入る    千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 ひとところ色の差したり青鬼灯   東京都葛飾区   本田 英夫 
 賑はひに這ひて出で来ぬ生身魂   東京都葛飾区   本田 英夫 
 航跡雲西へ一条秋夕焼       神奈川県大和市  ひろ志 
 郭公や覚めて暫く床の中      神奈川県横浜市  聖華 
 秋暑し油まみれの旋盤工      神奈川県横浜市  龍野 ひろし 
 天高し群青富士を正面に      静岡県富士宮市  遠藤 英二 
 霧早し尾根の隊列早や見えず    大阪府豊中市   西田 順紀 
 島影を小舟一艘夕焼けて      奈良県奈良市   堀ノ内 和夫 
 寺の鐘四方より聞こえ原爆忌    広島県広島市   表 孝征 
 蓮青葉大きく揺れて風の道     広島県広島市   林 己紀男 

特選句 選評

小林 美成子

女生徒の鞄はみ出す祭笛      岩手県   ミカワエツコ

 過疎化、高齢化、人口減少などの要因により、各地に伝わる伝統行事の担い手がどんどん少なくなっている。放課後に練習をするのであろうか、女生徒の鞄から除く祭笛は、読む者に頼もしさと希望を与えてくれる。
 元句の「カバン」は鞄に添削。

発掘の土器に番号鳥わたる     千葉県佐倉市 林 昭太郎

 出土した土器片それぞれに付された番号。研究員の地道な作業により、それらはやがてパズルの様に継ぎ合わされ、古代の器の姿が現代に蘇る。
時空を超えたロマンと、「鳥わたる」の季語が通い合う一句。

豊年や大河ゆつたり海に入る    千葉県佐倉市 林 昭太郎

 収穫期を迎えた穀倉地帯の上空から捉えた、ドローンの映像を見ている様な気宇壮大な句。この句から、嘗て新潟の弥彦山の山頂から眺めた、黄金色に染まった越後平野をゆったりと流れる信濃川の景が眼前に浮かぶ。

林 さわ子

発掘の土器に番号鳥わたる     千葉県佐倉市 林 昭太郎

 発掘中の未整理の土器か。研究者にとっては貴重な資料であるが、そんな事にかかわりなく鳥は太古の昔から毎年、渡りを繰り返してきたのだ。遥かなものへの感慨がある。 

藍色の空となりけり門火焚く    三重県四日市市 後藤 允孝       
 
 暮れてきた空の色が「藍色」との表現が透明感と共に、門火を焚く作者の静かな気持ちを感じさせる。 

開き初む月下美人に息合はす    滋賀県大津市 中村 良一       

 月下美人はサボテンの一種で、夜に美しい花を咲かせて数時間で花を終わる。咲き終わるまでの美しさを愛で、見届けようとする作者の気持が少しの緊張と共に、「息合はす」の表現によって伝わる。         


第79回 令和3年7月の募集

一般の部

小林 美成子 選

〇髪洗う養子にやったわけじゃなし  福岡県福岡市   森内 梅子
〇ネックレス絡みに絡む大暑かな   福岡県福岡市   森内 梅子
〇熊除けの鉦置かれあり登山口    大阪府豊中市   西田 順紀
 新涼や豆腐のしづむ金盥      千葉県佐倉市   林 昭太郎
 枕木のタールの匂ふ朝曇り     千葉県佐倉市   林 昭太郎
 夫婦して大吉神籤大祓       千葉県千葉市   玉井 令子
 エーゲ海のブルーさながらソーダ水 千葉県松戸市   吉沢 美佐枝
 水鉄砲俺ら今日から友達な     東京都墨田区   海老名 吟
 祇園会の来たれば姉の忌の近し   岐阜県岐阜市   辻  雅宏
 花菖蒲色なき色の雨の糸      静岡県富士宮市  遠藤 惠子
 ふるさとの景色変へたる出水かな  愛知県津島市   正木 羽後子
 もう一年生きるつもりの新茶買ふ  三重県四日市市  後藤 允孝
 朝刊のじんはり重し梅雨曇り    奈良県奈良市   堀ノ内 和夫 

林 さわ子 選

〇新涼や豆腐のしづむ金盥      千葉県佐倉市   林 昭太郎 
〇枕木にタールの匂ふ朝曇り     千葉県佐倉市   林 昭太郎 
〇頬張ればつゆ弾け飛ぶ大トマト   広島県大竹市   西亀 
 廃船の錆を零せる厄日過ぎ     千葉県佐倉市   林 昭太郎 
 すててこや路地の床几に一手指す  千葉県松戸市   吉沢 美佐枝 
 祓はれしたふさぎ締めて夏祭    千葉県松戸市   吉沢 美佐枝 
 願い札多き七夕竹しなふ      神奈川県川崎市  立野 音思 
 初生りの胡瓜を齧る朝餉かな    神奈川県川崎市  立野 音思 
 嗚呼山が家が車が梅雨出水     岐阜県岐阜市   辻  雅宏 
 ペダル踏む子ら一列に夕焼雲    三重県四日市市  後藤 允孝 
 釣り堀の水面の浮子や西日中    滋賀県大津市   中村 はるみ 
 鎖場を登る眼下に雲の峰      大阪府豊中市   西田 順紀 
 朝刊のじんはり重し梅雨曇り    奈良県奈良市   堀ノ内 和夫 
 山水の盥に游ぐトマトかな     広島県呉市    谷本 佳子 
 ネックレス絡みに絡む大暑かな   福岡県福岡市   森内 梅子 

特選句 選評

小林 美成子

髪洗う養子にやったわけじゃなし  福岡県福岡市   森内 梅子 

 髪を洗っている時は様々な思いがよぎるものだ。結婚した息子が相手方に取られてしまった様な淋しさを感ずるという話はよく耳にする。中七以下の率直な物言いが面白いので、あえて元句の現代語表記のまま採らせていただいた。

ネックレス絡みに絡む大暑かな   福岡県福岡市   森内 梅子 

 金やプラチナの細いチェーンネックレスは、まるで意思があるかのように絡み合い、急いで外出の折などいらいらさせられる。この句の「絡みに絡む」にはそんな気分が出ていて、暑さが一層助長させられる。

熊除けの鉦置かれあり登山口    大阪府豊中市   西田 順紀 

 近年、自然環境の変化で熊の出没のニュースをよく耳にする様になった。
登山口に貸登山杖が置かれているのは良く見かけるが、熊除けの鉦が置かれていたというこの句。読む者にも一挙に緊張が走る。

林 さわ子 

新涼や豆腐のしづむ金盥      千葉県佐倉市   林 昭太郎 

 金盥に豆腐を入れているのだから、豆腐屋か。早朝から水に沈めて売られている豆腐は夏の間も涼しげであったが、今朝はその金盥にも水にも秋が来ていることを感受したのだ。                   

枕木にタールの匂ふ朝曇り     千葉県佐倉市   林 昭太郎 

 線路の枕木はコンクリート製のものも増えているが、コストや敷設時の加工性などの理由でまだ使われている。防腐剤として木に滲みこませてあるタール製剤の匂い、朝曇り。昔の夏休みの景を感じさせる。        

頬張ればつゆ弾け飛ぶ大トマト   広島県大竹市   西亀 

 トマトの好きな人にとって丸かじりは美味しい。畑でもいで、直ぐに頬張ったのか。瑞々しさ、うまさが「つゆ弾け飛ぶ」によって生き生きと伝わる。

第78回 令和3年6月の募集

一般の部

小林 美成子 選

〇浄め酒かけておろせる祭足袋    千葉県松戸市   吉沢 美佐枝 
〇紫陽花の藍を離るる雫かな     三重県四日市市  後藤 允孝 
〇梅雨晴れ間今年は逢へるかも知れぬ 兵庫県尼崎市   松井 博介 
 老鶯や富士の麓に師を訪ね     千葉県千葉市   玉井 令子 
 聖火てふ薔薇満開の誕生日     千葉県千葉市   玉井 令子 
 夕涼やグラスに透ける港の灯    千葉県松戸市   吉沢 美佐枝 
 ソーダ水君は少女のままでいて   東京都墨田区   海老名 吟 
 余呉の湖芒種の雨に昏れにけり   岐阜県岐阜市   辻 雅宏 
 時の日や指先で聴く己が脈     三重県四日市市  後藤 允孝 
 夕暮の風の重さや梅雨きざす    三重県四日市市  後藤 允孝 
 更地なる生家の庭や草蜉蝣     滋賀県大津市   中村 はるみ 
 ポンポン船島のなだりに除虫菊   広島県広島市   林 己紀男 
 軒先を掠める光り初つばめ     広島県広島市   林 己紀男 
 スマホにて瀬戸の夕焼を送りけり  愛媛県新居浜市  加島 一善 
 逢へぬまま渡せぬ薔薇の持重り   沖縄県那覇市   稲福 達也 

林 さわ子 選

〇沙羅咲くやふと言ふ遺影撮りおくと 東京都葛飾区   本田 英夫 
〇浄め酒かけておろせる祭足袋    千葉県松戸市   吉沢 美佐枝 
〇紫陽花の藍を離るる雫かな     三重県四日市市  後藤 允孝 
 山寺や千段に降る蝉時雨      青森県平川市   工藤 悠久 
 内側の把手ひやりと夏館      岩手県      ミカワエツコ 
 母の里蚊帳吊りたくて泊まりけり  岩手県      ミカワエツコ 
 老鶯や富士の麓に師を訪ね     千葉県千葉市   玉井 令子 
 青東風やパラグライダー飛びたてり 千葉県千葉市   玉井 令子 
 夕涼やグラスに透ける港の灯    千葉県松戸市   吉沢 美佐枝 
 あめんぼう風によせられ池の端   神奈川県平塚市  高橋 勝久 
 夕風やひめぢよをんのほの白く   神奈川県大和市  ひろ志 
 余呉の湖芒種の雨に昏れにけり   岐阜県岐阜市   辻 雅宏 
 更地なる生家の庭や草蜉蝣     滋賀県大津市   中村はるみ 
 さみだれや空の巣箱を叩きをり   奈良県奈良市   堀ノ内和夫 
 坂登りぐんと近づく曇の峰     広島県呉市    谷本 佳子 
 玉石を嘴で突きをり鴉の子     広島県広島市   表 孝征 
 軒先を掠める光り初つばめ     広島県広島市   林 己紀男 
 囀ずりの零れる木蔭大極拳     広島県広島市   林 己紀男 

特選句 選評

小林 美成子

浄め酒かけておろせる祭足袋    千葉県松戸市  吉沢 美佐枝 

 祭衣装の総仕上げとしての祭足袋は、何枚ものこはぜが付いた粋なもの。その真新しい祭足袋に浄め酒かけて装着すれば、祭り気分は最高潮である。昨年来、コロナ禍で多くの祭が中止となった。日本人のアイデンティティを支える祭の意味を、改めて思い出させる句。 

紫陽花の藍を離るる雫かな     三重県四日市市 後藤 允孝
 
 雨あとの湿りを帯びた紫陽花の美しさは、心が洗われるようである。
かすかな風に藍色の花びらがふと雫をこぼす。そんなデリケートな瞬間を「藍を離るる」と独自のことばで捉え、新鮮である。

梅雨晴れ間今年は逢へるかも知れぬ 兵庫県尼崎市  松井 博介 

 直接的な表現は避けているが、コロナ禍中の今誰もが抱いている気分を詠んだ句と分かる。久しぶりの青空を仰いでいると、もう二年近くも逢えずにいる誰彼の顔が浮かぶ。「今年」に希望と不安のニュアンスが。

林 さわ子

沙羅咲くやふと言う遺影撮りおくと 東京都葛飾区 本田 英夫 

 親子だろうか。庭を眺めていたのか。遺影を撮っておくと言う。まだ元気なうちに墓や葬儀の用意をする人はいるが、ふいに、ぽつりと言ったのだ。これは切ない。沙羅の花の白さが沁みる。

浄め酒かけておろせる祭足袋    千葉県松戸市  吉沢 美佐枝 

 神輿の担ぎ手などは禊、塩、酒、と種々の方法で身を清めるが、この句では酒である。酒をかけてから足袋をおろすとは、いかにも勇壮な祭りと心意気を想像させる。    

紫陽花の藍を離るる雫かな     三重県四日市市 後藤 允孝  

 紫陽花の雨雫か。雫が大きくなって落ちるまでの僅かな時間と、その間だけ雫が宿す色とを「離るる」のひと言で巧みに表現した。
                    

第77回 令和3年5月の募集

一般の部

小林 美成子 選

〇スコッチの空き瓶ひとつ番屋閉づ  東京都墨田区   海老名 吟 
〇長考に入りし将棋や蜘蛛の糸    滋賀県大津市   中村 良一 
〇尺取りの進む御堂の大廊下     広島県大竹市   西亀 
 金粉を散らして火蛾の狂ひけり   青森県平川市   工藤 悠久 
 植ゑし田の水澄むころや夕蛙    埼玉県吉川市   石井 カズオ 
 蟄居して蠅虎を友とせり      埼玉県吉川市   石井 カズオ
 白南風に地図あふられて海の旅   千葉県佐倉市   林 昭太郎
 黴臭き歳時記にひく黴の項     千葉県佐倉市   林 昭太郎
 艶やかに波打つ甍走り梅雨     千葉県松戸市   吉沢 美佐枝
 葉桜の下で手相を褒めらるる    東京都墨田区   海老名 吟
 みよし野の山をけぶらし余花の雨  岐阜県岐阜市   辻 雅宏
 瑠璃色の星屑集め額の花      静岡県富士宮市  遠藤 惠子
 川風に吹かれ百余の鯉のぼり    大阪府豊中市   西田 順紀
 枝先のしずく落として巣立鳥    大阪府東大阪市  森 教安
 つり舟の舳先もち上ぐ卯月波    広島県広島市   林 己紀男
 徘徊の魂もどり昼寝覚       愛媛県新居浜市  加島 一善
 江ノ電の窓を叩くや七変化     愛媛県新居浜市  加島 一善
 葬列の遠くすぎゆく麦の秋     福岡県福岡市   森内 梅子

林 さわ子 選

〇雲の峰背丈に余る草を薙ぐ     三重県四日市市  後藤 允孝
〇尺取りの進む御堂の大廊下     広島県大竹市   西亀
〇葬列の遠くすぎゆく麦の秋     福岡県福岡市   森内 梅子
 温顔の祖父や夏炉の匂ひして    岩手県      ミカワ エツコ
 植ゑし田の水澄むころや夕蛙    埼玉県吉川市   石井 カズオ
 苗を植う棚田の水の光りたる    千葉県千葉市   玉井 令子
 夏祭り花火とともに光る君     千葉県夷隅郡   西潟 千秋
 明早し木道に鳴る靴の音      千葉県松戸市   吉沢 美佐枝
 みよし野の山をけぶらし余花の雨  岐阜県岐阜市   辻 雅宏
 木曽川の水たっぷりの青田かな   愛知県津島市   正木 羽後子
 鯉幟三代の空泳ぎけり       大阪府東大阪市  森 教安
 枝先のしずく落として巣立鳥    大阪府東大阪市  森 教安
 川風に吹かれ百余の鯉のぼり    大阪府豊中市   西田 順紀
 忘草遠目に知れる川の土手     奈良県奈良市   堀ノ内 和夫
 一匹の金魚と帰る夕間暮れ     福岡県福岡市   森内 梅子

特選句 選評

小林 美成子

スコッチの空き瓶ひとつ番屋閉づ  東京都墨田区  海老名 吟
 
 歳時記には「番屋閉づ」について「東北地方などから出稼ぎに来ていた渡り漁夫も、鰊の漁期が終わるとそれぞれの国に戻る。彼らが寝泊りしていた番屋も、翌年の漁期まで閉鎖となる」とある。そんな番屋に一升瓶ではなく、スコッチの空き瓶を発見したのがこの句の手柄。予定調和を突き抜けてこそ俳句は面白い。

長考に入りし将棋や蜘蛛の糸    滋賀県大津市  中村 良一
 
 盤面をにらみながら最善手を模索する長考。張りつめた空気の座敷の外の庭に静かに糸を張る一匹の蜘蛛。棋士と蜘蛛の時間をシンクロさせた静謐な雰囲気を持った作品。

尺取りの進む御堂の大廊下     広島県大竹市  西亀
 
極小の尺取りと大伽藍の廊下との取り合せが面白い。黒光りのする大廊下を伸び縮みしながら懸命にすすむ尺取りの哀れと、その命を見守る仏の慈悲を感じさせる句。

林 さわ子 選

雲の峰背丈に余る草を薙ぐ     三重県四日市市  後藤 允孝

 「薙ぐ」は刃物で横ざまに払い切ること。草刈り機を使っての草刈りか。「雲の峰」の真昼、「背丈に余る草」を相手に暑さも疲労も大きいように思えるが、不思議に爽快な句だ。              
                    
尺取りの進む御堂の大廊下     広島県大竹市   西亀

 何処から来たのか、仏様の御堂に尺取虫が。立派な大廊下を尺を取って進む姿が面白い。命あるもの全てに慈悲を垂れる仏の元へ、向かっているようでもある。       
                  
葬列の遠くすぎゆく麦の秋     福岡県福岡市   森内 梅子
 
 輝く麦秋の中、葬列が過ぎる光景。亡くなったのは農家の人だろうか。豊かな麦の稔りは、何よりの手向けかも知れない。「遠くすぎゆく」の措辞から作者の感慨が伝わる。 

第76回 令和3年4月の募集

一般の部

小林 美成子 選

〇大湖の空につばめと比叡山     栃木県那須塩原市 垣内 孝雄
〇虚子の忌の一斉に開くホームドア  千葉県佐倉市   林  昭太郎
〇霾ぐもり浜の駱駝の横座り     静岡県富士宮市  遠藤 惠子
 そこだけの風うごきだす半仙戯   千葉県松戸市   吉沢 美佐枝
 国語の集ふ教会風光る       神奈川県横浜市  龍野 ひろし
 放流の稚魚きらきらと春の川    神奈川県横浜市     幸子
 草も木も明るし出羽の山の春    福井県坂井市   小林 陸人
 行きつけの呑み屋更地に菜種梅雨  岐阜県可児市   鷲津 誠次
 紫のしづく滴る藤の雨       岐阜県岐阜市   辻  雅宏
 二の丸や花の雨降るお菊井戸    岐阜県岐阜市   辻  雅宏
 病む母につき通す嘘朧月      愛知県津島市   正木 羽後子
 木曽川の水面緩やか黄水仙     愛知県津島市   正木 羽後子
 風を知る丈となりけり今年竹    三重県四日市市  後藤 允孝
 頬杖をついて日永の人となる    滋賀県大津市   中村 良一
 教壇を離れて二年啄木忌      兵庫県尼崎市   松井 博介
 浅草の古きグリルや荷風の忌    兵庫県尼崎市   松井 博介
 新宿のペンシルビルに燕の巣    兵庫県神戸市   峰  乱里

林 さわ子 選

〇朱夏の音たてて強火の中華鍋    千葉県佐倉市   林  昭太郎
〇たんぽぽの種がよぎるよ顔の上   東京都葛飾区   本田 英夫
〇草も木も明るし出羽の山の春    福井県坂井市   小林 陸人
 花冷えや番茶に落とす生姜擂る   東京都八王子市  須知 よし彦
 花楓歩む手と手の触れ合へる    神奈川県平塚市  高橋 勝久
 鴫立庵句碑に囲まれ春たくる    神奈川県平塚市  高橋 勝久
 放流の稚魚きらきらと春の川    神奈川県横浜市     幸子
 霾ぐもり浜の駱駝の横座り     静岡県富士宮市  遠藤 惠子
 頬杖をついて日永の人となる    滋賀県大津市   中村 良一
 シャツズボン撒き散らかして春の海 大阪府東大阪市  森  教安
 浅草の古きグリルや荷風の忌    兵庫県尼崎市   松井 博介
 鉢植えの桜桃一つ宝物       広島県広島市   表  孝征
 満開のつつじの瀬戸を渡りけり   広島県呉市    谷本 佳子
 新聞の兜かぶる子青葉風      広島県呉市    谷本 佳子
 スクリーンを蛾の影占める映画館  愛媛県新居浜市  加島 一善
 春落葉巨樹千年の息吹かな     沖縄県那覇市   稲福 達也

特選句 選評

小林 美成子

大湖の空につばめと比叡山   栃木県那須塩原市  垣内 孝雄

 歌人の河野裕子は、琵琶湖を「昏き器」と詠んだが、初夏の陽光に満ちた今日の琵琶湖は眩しいばかりの明るさだ。琵琶湖の空をキャンバスに、遠景の比叡山、点景としての燕を配した絵画的な作品。


虚子の忌の一斉に開くホームドア   千葉県佐倉市  林 昭太郎

 忌日俳句は、人物と内容の距離の取り方が難しい。この句の電車の到着と共に一斉に解放されるホームドアと、虚子との関連をどう読むべきか。私は、どっと吐き出される乗客と、元を辿れば皆虚子の弟子に連なる筈の数百万と言われる現在の俳句人口を重ねたのだが。

霾ぐもり浜の駱駝の横座り   静岡県富士宮市  遠藤 惠子

 「浜の駱駝」は鳥取砂丘の駱駝の事か。西アジアやアフリカの広大な砂漠の生き物の駱駝が、極東の観光地で人を載せて日銭稼ぎの使役をさせられている。この句の気だるげな「横座り」にそんな駱駝の哀れが出ている。

林 さわ子

朱夏の音たてて強火の中華鍋   千葉県佐倉市  林 昭太郎

 炒め物を作っている中華鍋。油が弾け、鍋底がコンロに当たり、材料が煽られる等々の音を「朱夏の音」と表現。猛暑に負けない力強い暮らしを中華鍋が伝えている。    

たんぽぽの種がよぎるよ顔の上   東京都葛飾区  本田 英夫

 草に寝転んでいると、顔の上をたんぽぽの絮がふわりとよぎった。何処かへ風任せに飛んで行く種に、作者の愁いとも充足感ともつかない気持ちが投影されているようだ。  

草も木も明るし出羽の山の春   福井県坂井市  小林 陸人

 生まれ変わりの信仰で知られる出羽三山の春を、「明るし」と大らかに感じ取っている。厳しい冬を越えた草木のやわらかな姿が想像される。

第75回 令和3年3月の募集

一般の部

小林 美成子 選

〇三山の左右に二山いぬふぐり    滋賀県大津市   中村 良一
〇外出嬉し衝動買ひの春の服     京都府木津川市  西澤 由美子
〇ことごとく物に影あり日脚伸ぶ   広島県広島市   林 己紀男
 髪を梳く鏡の花菜明りかな     青森県平川市   工藤 悠久
 海までのこの坂が好き風光る    岩手県洋野町種市 みかわ えつこ
 八の字に脚踏ん張つて雀の子    埼玉県吉川市   石井 カズオ
 父の心電図凪たりぼたん雪     埼玉県吉川市   石井 カズオ
 蜷の道なぞってひとり待ちぼうけ  東京都墨田区   海老名 吟
 ごめ渡るテトラポッドの墓標めき  東京都墨田区   海老名 吟
 覆い来る鳶の眼黒し春漁港     神奈川県平塚市  高橋 勝久
 かげろへる原爆ドーム晝の黙    岐阜県岐阜市   辻 雅宏
 湖巡るサイクルロード花菜風    滋賀県大津市   中村 治美
 堰落つる音まろやかに水温む    大阪府東大阪市  森 教安
 田起こしの土それぞれに尖りけり  広島県広島市   林 己紀男
 この国に子供食堂多喜二の忌    福岡県福岡市   森内 梅子

林 さわ子 選

〇八の字に脚踏ん張つて雀の子    埼玉県吉川市   石井 カズオ
〇父の心電図凪たりぼたん雪     埼玉県吉川市   石井 カズオ
〇ジャワ島やハイビスカスを食う兵士 奈良県奈良市   相沢 はつみ
 髪を梳く鏡の花菜明りかな     青森県平川市   工藤 悠久
 海までのこの坂が好き風光る    岩手県洋野町種市 みかわ えつこ
 亡きひとの夢ばかりみて花盛り   岩手県洋野町種市 みかわ えつこ
 陽炎や下宿の在りしこの辺り    神奈川県横浜市  龍野 ひろし
 かげろへる原爆ドーム晝の黙    岐阜県岐阜市   辻  雅宏
 馬鈴薯植う煤のつきたる母の顔   静岡県富士宮市  遠藤 惠子
 くつくつと笑ふ厨の浅蜊鍋     愛知県津島市   正木 羽後子
 あわいより太陽の塔しだれ梅    大阪府豊中市   西田 順紀
 ランドセル背中いっぱい春夕焼   大阪府東大阪市  森  教安
 クリームパン食べて桜の散る公園  奈良県奈良市   相沢 はつみ
 み吉野の谷を渡りて囀れる     奈良県奈良市   堀ノ内 和夫
 ことごとく物に影あり日脚伸ぶ   広島県広島市   林  己紀男
 田起こしの土それぞれに尖りけり  広島県広島市   林  己紀男

高校生の部

小林 美成子 選

 封鎖なるロンドン市街春の雨    福井県坂井市   小林 陸人
 海沿ひの村荒れ果てて東北忌    福井県坂井市   小林 陸人

林 さわ子 選

 封鎖なるロンドン市街春の雨    福井県坂井市   小林 陸人
 海沿ひの村荒れ果てて東北忌    福井県坂井市   小林 陸人
 荒れ果てし教室に日や原発忌    福井県坂井市   小林 陸人

特選句 選評

小林 美成子

三山の左右に二山いぬふぐり   滋賀県大津市  中村 良一 

 奈良盆地の耳成、香具、畝傍の大和三山を想像した。三山に控えるようにして、名も無き二つの山が。いふぐりの花の野に立つ作者はさながら若菜摘みに興じる万葉人の気分か。大景を詠んで気宇壮大な句。「三山の左右(さう)に二山や」としてより俳句らしいリズムにしたい。

外出嬉し衝動買ひの春の服   京都府木津川市 西澤 由美子 

 コロナが少し落ち着きを見せた春の一日、久しぶりの外出に思わず知らず心が浮き立つ。売り場の春服の色彩がいつになく心に止まり、つい買ってしまった。当たり前の日常が輝いていることを気付かせてくれる句。
「嬉し」の直接的表現もこの句の場合は許される。外出は外出(そとで)と読みたい


ことごとく物に影あり日脚伸ぶ   広島県広島市  林 己紀男 

冬至を過ぎたころから昼の時間が僅かずつのびて、春が近いことを実感する。日射しの下ですべての物が影を作り出しているという当たり前の
事象を詠んで、待春の気分の横溢した句となった。「ことごとく物に影あり」の表現が秀逸。

林 さわ子

八の字に脚踏ん張つて雀の子     埼玉県吉川市  石井 カズオ 
      
 身近な鳥である雀。巣立ったばかりの雀の子だろうか。拙いながらも、しっかり立っている姿が「八の字」から伝わる。     

                  
父の心電図凪たりぼたん雪      埼玉県吉川市  石井 カズオ 
       
 父上の臨終。着けられている心電図の波形が平坦になったことを「凪たり」と、穏やかなものに感じた作者。厳しい闘病の時があったことを伝えている。折しも、外はやわらかなぼたん雪。愛惜の思いに心打たれる句だ。


ジャワ島やハイビスカスを食う兵士  奈良県奈良市  相沢 はつみ 
   
 南方の戦地で飢餓があったことは知られている。ジャワ島はさほどではなかったとも聞くが、米供出や兵補の存在等、何も無かったわけではないようだ。真赤な南国の花が命の象徴のように感じられる。        

第74回 令和3年 2月の募集

一般の部

小林 美成子 選

〇こゑのみの白鳥夜を帰りけり      埼玉県吉川市  石井 カズオ
〇摘草や土手に自転車横たへて      神奈川県横浜市 龍野 ひろし
〇追伸に尋ねる雪の深さかな       大阪府豊中市  西田 順紀
 ミステリーの終章明日へ春遅々と    栃木県塩谷町  河原 さんぽ
 皇帝ダリア冬青空の底抜けに      千葉県松戸市  吉沢 美佐枝
 一粒も残さず食はれ実万両       神奈川県横浜市 聖華
 留守電の点滅闇に余寒なほ       神奈川県横浜市 龍野 ひろし
 この辺りかつて花街春しぐれ      岐阜県岐阜市  辻 雅宏
 春浅き甲府盆地や龍太の忌       岐阜県岐阜市  辻 雅宏
 花菜風そよぐ水辺のカフェテラス    静岡県富士宮市 遠藤 惠子
 潮風の岬の斜面水仙花         静岡県富士宮市 遠藤 英二
 春鳥の一啼き強く水面過ぐ       滋賀県大津市  中村 良一
 下萌えを踏みゆく足裏弾みけり     滋賀県大津市  中村 良一
 雪雲やぽかりと割れて湖の青      京都府木津川市 西澤 由美子
 水仙花供なふる乙女兵士の碑      広島県広島市  表 孝征
 

林 さわ子 選

〇母なくて郷の三月風ばかり      岩手県洋野町種市 みかわ えつこ 
〇春うらら亀ぞろぞろと甲羅干し    神奈川県平塚市  高橋 勝久 
〇強東風や幹する音の艪のごとし    広島県広島市   表 孝征 
 ミステリーの終章明日へ春遅々と   栃木県塩谷町   河原 さんぽ 
 後ろから肩をたたくもマスクかな   栃木県塩谷町   河原 さんぽ 
 こゑのみの白鳥夜を帰りけり     埼玉県吉川市   石井 カズオ 
 皇帝ダリア冬青空の底ぬけて     千葉県松戸市   吉沢 美佐枝 
 春障子木の影葉の影花の影      神奈川県川崎市  立野 音思 
 摘草や土手に自転車横たへて     神奈川県横浜市  龍野 ひろし 
 一粒も残さず消えし実万両      神奈川県横浜市  聖華 
 この辺りかつて花街春しぐれ     岐阜県岐阜市   辻 雅宏 
 下萌えを踏みゆく足裏弾みけり    滋賀県大津市   中村 良一 
 鳥雲にチンカラリンとロバのパン   愛媛県新居浜市  加島 一善 
 つくづくし指しても指してもへぼ将棋 福岡県福岡市   森内 梅子 
 絵手紙の美しき梅見の誘ひかな    沖縄県那覇市   稲福 達也 

高校生の部

小林 美成子 選

 春の日のにぎはふ漁港下関       福井県坂井市  小林 陸人
 春の日の五重塔や瑠璃光寺       福井県坂井市  小林 陸人
    秋吉台にて
 春の日のセグウェイツアー楽しめる   福井県坂井市  小林 陸人

林 さわ子 選

 春の日のにぎはふ漁港下関       福井県坂井市  小林 陸人 

中学生の部

小林 美成子 選

 「小太郎」は母が拾った子猫の名    福井県坂井市  小林 隆人
 猫の子の「小太郎」はよく膝に乗る   福井県坂井市  小林 隆人

林 さわ子 選

 猫の子の「小太郎」はよく膝に乗る   福井県坂井市  小林 隆人 

小学生の部

小林 美成子 選

 春吹雪僕らの家も襲ったぞ       福井県坂井市  小林 陽人 
 夜桜の下で屋台のたこ焼き食う     福井県坂井市  小林 陽人
 兄ちゃんも学校休み春吹雪       福井県坂井市  小林 陽人

林 さわ子 選

 夜桜の下で屋台のたこ焼き食う     福井県坂井市   小林 陽人 
 兄ちゃんも学校休み春吹雪       福井県坂井市   小林 陽人 

特選句 選評

小林 美成子

こゑのみの白鳥夜を帰りけり   埼玉県吉川市  石井 カズオ
 北帰行の時期を迎え、何となくざわつき出した白鳥の飛来地、例えば新潟県の瓢湖などが目に浮かぶ。飛び立つ白鳥たちの中に日暮れを待って決行するものも。闇の中にその声を聞きとめた作者の感慨が、「夜を帰りけり」から伝わる。

摘草や土手に自転車横たへて   神奈川県横浜市 龍野 ひろし
 土筆、たんぽぽ、野蒜、すかんぽなどが一斉に芽吹き始めた堤の景が目に浮かび、読む者の胸に春の息吹がいっぱいに広がる。「土手に自転車横たへて」のフレーズの青春性が一句を支えている。

追伸に尋ぬる雪の深さかな    大阪府豊中市  西田 順紀
 手紙のお相手は雪との共生が日常となっている地方の方と想像される。さりげなく添えられた思いやりの一言に、救われた思いをされたことだろう。元句の「尋ねる」の現代語表記を、「かな」止めとの統一をはかる為「尋ぬる」と歴史的表記に添削。

林 さわ子

母なくて郷の三月風ばかり    岩手県洋野町種市 みかわ えつこ
 三月、帰郷しても母はもういない。水は温み、草は萌える季節だが、「風ばかり」だと感じる。母がいてこその郷の春だったと、母恋の句だ。

春うらら亀ぞろぞろと甲羅干し  神奈川県平塚市  高橋 勝久 
 池の石に思わぬ数の亀がいる。「ぞろぞろと」と感じたままに表現。うららかな日差しで活発になった亀の姿が想像され、いかにも春らしい
。               
強東風や幹する音の艪のごとし  広島県広島市   表 孝征 
 春はしばしば激しい風をもたらす。木々がぎしぎしと擦れ合う音を、手漕ぎの艪の軋む様「艪のごとし」と聞いたのだ。風の激しさを感じさせる。            

第73回 令和3年 1月の募集

一般の部

小林 美成子 選

○それぞれに鼓動秘めたる枯木かな  神奈川県横浜市 龍野 ひろし
○春浅し眉美しき黒マスク       神奈川県川崎市 立野 音思
○きびきびと動く夫ゐて寒に入る    静岡県富士宮市 遠藤 恵子
 滝凍てて青き柱となりにけり     青森県平川市  工藤 悠久
 読了の余韻にひたる初湯かな     栃木県塩谷町  河原 さんぽ
 御長寿の病自慢や福寿草       千葉県市川市  鳥越 暁
 砂浜のまずごみ拾ひ寒稽古      千葉県市川市  鳥越 暁
 はくれんの力溜めゐる冬芽かな    千葉県松戸市  吉沢 美佐枝
 春を待つ大樹の鼓動聴きながら    神奈川県横浜市 龍野 ひろし
 日蓮の流刑の島や冬怒涛       静岡県富士宮市 遠藤 英二
 野仏ののつぺらぼうや日脚伸ぶ    静岡県富士宮市 遠藤 英二
 屠蘇祝ふ沈金の鶴翔ぶ如し      愛知県津島市  正木 羽後子
 七草の揃はぬ粥で邪気祓ふ      京都府木津川市 西澤 由美子
 其処此処に寒肥の山植物園      大阪府豊中市  西田 順紀
 凩や上棟式の吹き流し        奈良県奈良市  堀ノ内 和夫
 ランナーの香を残し過ぐ寒の朝    広島県広島市  表 孝征

林 さわ子 選

○左義長や大蛇のごとくくねる注連   静岡県富士宮市 遠藤 英二
○初晴や大縄跳びをする家族      大阪府東大阪市 森 教安
○秋の蝶横切ってから弓を引く     奈良県奈良市  相沢 はつみ
 滝凍てて青き柱となりにけり     青森県平川市  工藤 悠久
 読了の余韻にひたる初湯かな     栃木県塩谷町  河原 さんぽ
 藁灰にマグマ隠るるどんど焼き    神奈川県平塚市 高橋 勝久
 機上より望む富嶽や初日の出     岐阜県岐阜市  辻 雅宏
 篝火の寝ずの番して年迎ふ      岐阜県岐阜市  辻 雅宏
 きびきびと動く夫ゐて寒に入る    静岡県富士宮市 遠藤 恵子
 仮の国の父と母へや除夜の鐘     愛知県津島市  正木 羽後子
 其処此処に寒肥の山植物園      大阪府豊中市  西田 順紀
 北陸の空に色なし冬深し       兵庫県神戸市  峰 乱里
 冬の日のこけしの顔に届きけり    奈良県奈良市  堀ノ内 和夫
 玄関の青き自転車春を待つ      広島県呉市   谷本 佳子
 ことごとく物に影あり日脚伸ぶ    広島県広島市  林 己紀男
 大寒の空山の端を削り出す      福岡県太宰府市 岩橋 潤

高校生の部

小林 美成子 選

 山陰は大雪の中山陽も        福井県坂井市  小林 陸人

林 さわ子 選

 山陰は大雪の中山陽も        福井県坂井市  小林 陸人
 コロナ禍やちちはは家に初仕事    福井県坂井市  小林 陸人
   コロナ感染者急増
 投句して形となりぬ初句会      福井県坂井市  小林 陸人

特選句 選評

小林 美成子

それぞれに鼓動秘めたる枯木かな   神奈川県横浜市 龍野 ひろし
 枯れの極まった木々の厳しいたたずまいに、芽吹きの前の鼓動を感じ取っている作者。命の放出の始まる春はもうすぐだ。研ぎ澄まされた感覚で対象を捉えた句。

春浅し眉美しき黒マスク       神奈川県川崎市 立野 音思
 コロナ禍が生み出した異様な風景もすっかり日常となった。若い女性たちはマスクをファッションとして楽しんでいる様だ。「黒マスク」に美しさと共に不安も。

きびきびと動く夫ゐて寒に入る    静岡県富士宮市 遠藤 惠子
 いよいよ本格的な寒さがやって来た。夫は今日も元気に立働いて少しもじっとしていない。「きびきび」のオノマトペが句に生気をもたらし、季語と響き合っている。

林 さわ子

左義長や大蛇のごとくくねる注連   静岡県富士宮市 遠藤 英二    
 強くねじり括られていた注連縄が、燃えながらほどけていく様を「大蛇のごとく」と活写した。火の勢いや注連縄の大きさも見えてくる。
       
初晴や大縄跳びをする家族      大阪府東大阪市 森 教安       
 元日に大縄跳びをする家族とは、元気で若く、人数も多いに違いない。初晴は五穀豊穣の兆しとされるが、笑い声と、地を打つ大繩の音が天まで届くような喜びの光景である。

秋の蝶横切つてから弓を引く     奈良県奈良市  相沢 はつみ       
 弓道場に秋蝶が飛んできた。構えていた弓を止め、蝶の過ぎるのを待って弓を引いたというのだ。うつろいの季節の蝶に心を寄せたことで、静かで豊かな時間が生まれた。