会員作品

紅頬集 秀句佳句

 会員の方の作品集「紅頬集(こうきょうしゅう)」より、特に優れた俳句の選評「紅頬集 秀句・佳句」を転載しています。
令和2年(2020)7月号より、「紅頬集」の選は、田島和生主宰より鈴木厚子副主宰へ引き継がれました。それに伴い、選評も鈴木副主宰となりました。

令和3年(2021)

1月号 鈴木 厚子 副主宰

石山に紅さし始む神無月   黒川 愛子(巻頭)

 石を削る山、高砂市の龍山で、昔は城の崖石になり、現在も建築の材として産出されている。その削られていく白い山肌に紅が差し始めたと感受。毎日眺めていてこそ気づく。しかも神さまが出雲へお出かけになってしまった淋しさの中でという。リズムもよく感覚が素晴らしい。作者は 高砂の人。

しやがむ児のさらに目の下秋の蝶   岩本 博行

 しゃがみ込んでいる児のさらに目の下を秋の蝶が飛んで いる。寒さでだんだん元気がなくなり、秋光に漂う蝶。それゆえに、低くそして鮮やかだ。はかないいのちの必滅のわびしさが「しゃがむ児のさらに目の下」と低さを具体的に写生している。作者は市川の人。

秋の暮顔見えぬまで話す人   細野 健二

 「顔見えぬまで話す人」に、釣瓶落しの秋の暮がよく出ている。本人同士はさほどでなくても、第三者には顔も見えないだろうにと。なんの衒いもみせず、季節の変貌を鋭く捉え、日常の生活をさらりと詠んでいる。作者は八王子市の人。

白秋の光差す午後父逝きぬ   斎藤 直子

 「白秋の光差す」に澄んだ空気、山々が粧っている秋日の美しい中、しかも暖かい午後に父が亡くなった。「白秋」の語に神に召された父への静かな祈りと尊敬の念が出ている。作者は八王子の人。

銀漢の海の真闇へ真つ逆様   中島 麻美

 天の川が海の真闇へ真っ逆さまに落ちていくようだと、 胸のすくようなスケールの大きい句。「銀漢」としたことで神秘さが出た。作者は長崎の人。

掘る度に笑ひのおこる甘藷不作   本池 和子

 「甘藷不作」で、粒が小さく根が長いばかりで、掘る度に笑いがおこる。期待はずれの甘藷だが「笑ひのおこる」 に救われる楽しさ。土まみれになった笑顔が見えてくる。作者は高砂の人。

松手入れ地下足袋しかと幹とらへ   辻井 康子

 「地下足袋しかと幹とらへ」に、長地下足袋で身軽く幹を捉えながら登ったり下りたりしている庭師。一本の松の手入れを梯子なしで、その熟練技の美しさに見惚れている。 作者は広島の人。

名月や電話は嬰の喃語かな   糟谷 光子

 外は名月の明るさ、電話に嬰の声がしている。幼児は何をしゃべっているのか判らないけれど、ともかく元気でいることがうれしく幸せである。たいへん明るい夢のある句。 作者は高砂の人。

姉帰る木犀の香の闇夜より   前田 節

 姉が帰って来る。「木犀の香の闇夜より」に、久々に逢う姉が勤務を終えて靴音をさせて、さっそうと帰って来る。木犀の香る「闇夜」という把握に作品の背景を展き、内容を深くした。 作者は広島の人。

紅葉晴疫病(えやみ)鎮めと火を渡る   田浦 朝子

 「疫病み」はコロナだろう。鎮まれと願いながら火渡り神事の火を渡っている。周囲は紅葉の山々で、しかも日本晴れ。火渡りの火と紅葉の色、すべて錦繍の秋の一日に疫病みも鎮まったにちがいない。作者は船橋の人。

小流れの奥へと石蕗の花明かり  世羅 智子
艶やかに油に馴染む秋茄子    西部 栄子
菊日和石橋木橋渡りけり     山岡 ひろみ
立冬や玄関の戸に油注す     芝山 康夫
新聞を見開く音と秋の日と    佐々木 俊樹
男来て落葉掃きゐる尼の寺    荒巻 久江
夜学生の走る靴音十三夜     古岡 壽美恵
鳶の輪の海にひろごる菊日和   熊谷 キヨヱ
一踏み込みて出口わからぬ芒原  橋本 園江
虫籠を玄関ぐちに通し土間    青木 千春
横ゆれて歩道横切る枯蟷螂    宮坂 千枝子
サッカー少年滴る汗と満天星   伊藤 佳子