同人作品
誌上の同人作品は、「雉笛集」「白雉集」「飛翔集」「青藍集」があり、それらは同人歴によって分けられています。
同 人 作 品 抄
令和4年 12月
隣の子連れて月見の芒採り (副主宰)鈴木 厚子
一人には大きすぎたる梨洗ふ 河野 照子
灯火親し父の写真に父の文字 二宮 英子
胎の子の動くというて林檎食ぶ 内藤 英子
身綺麗に老いたしと母濃竜胆 佐藤 泰子
母の忌の近づき越の時雨空 荒井 八千代
防人の石碑小さき瓢の笛 藤巻 喜美子
寺の庭俄かにふゆる赤蜻蛉 中山 ち江
新米を搗けば甘き香ひろごれり 寺田 記代
秋の雨寺の大屋根洗ひけり 山田 由美子
月明や夫の遺せし大硯 天野 桃花
雑草に混ざり咲きをる蕎麦の花 海生 典代
尼寺の耳門くぐれば酔芙蓉 篠崎 順子
夫と子に一献供ふ新走り 本多 静枝
酒樽を卓に試飲や野分晴 新本 孝子
子の渡す稲を稲架へと掛ける父 溝田 ちどり
夜学の灯川面に長くきらめけり 新長 麗子
敬老日仕出しの折に赤ワイン 渡邊 小夜子
まだ冷めぬ仏飯に付く秋の蠅 市村 英樹
秋祭茣蓙一枚の骨董屋 馬木 芳子
拘置所の塀より高き紫苑かな 松井 英智子
無花果の高き枝まで蟻の這ふ 武田 弘子
瀬戸内の潮流速き厄日かな 溝西 澄恵
片翅を立てて威嚇のいぼむしり 鳥谷 恵子
正の字を書きて新米積み重ね 迫 美代子
令和4年 11月
川音の集まる背戸や風涼し (副主宰)鈴木 厚子
声しぼり原爆語る生身魂 永田 由子
覚めてまた点す夜長の灯なりけり 河野 照子
生き物の影を濃くして晩夏かな 大前 貴之
山影を出て山影へ祭山車 久保 方子
むくろかと思ひしが飛び秋の蟬 越桐 三枝子
神の田に広がり下りし稲雀 二宮 英子
朝顔に声をかけては水をやり 内藤 英子
ひと雨の草起き上がる終戦日 林 さわ子
炎昼の輪郭失せし沖の船 藤井 亮子
月近き湯の宿包む津軽三味 笹原 郁子
新涼や葛籠に漆重ね塗り 井上 千恵子
洲走の群や運河を飛び跳ねて 上原 カツミ
寝る前のひときは静か盆の月 依田 久代
行く夏や浜辺に残るゴム草履 小林 亮文
早朝の木々爽やかや寺の町 中山 ち江
穂孕みの風筒抜けに勝手口 今田 舞子
独り居に木犀匂ふ夜風かな 住岡 公子
波がしら尖る海峡雁渡し 堀向 博子
コスモスの風吹き抜くる鶏舎かな 石井 和子
奥能登の籬たかだか大南風 下見 博子
爆音の遠のく峡の無月かな 今田 昌克
前山に雲の影差す稲の花 大原 恵子
水澄むや亀の潜りて泡ひとつ 原 万代
麺棒の柾目艶やか走り蕎麦 溝西 澄恵
令和4年 10月
点灯や燈籠の絵の花ひらき (副主宰)鈴木 厚子
ホームレス朝の目覚めに蓮咲けり 永田 由子
秋燕や岬に残る城の跡 河野 照子
たも立てて小舟出てゆく雲の峰 久保 方子
梅雨明や熱々にしてつみれ汁 二宮 英子
びんつけの匂ふかつらを曝しけり 栗原 愛子
飢饉の碑供へしものに蟻群れて 近藤 弘子
伏す夫に風鈴の良く鳴る日かな 小林 美成子
軒下の青大将へ雨強し 浜田 千代美
大空へ色を重ねて花樗 古岡 美惠子
一杯や神田横丁どぢやう鍋 森 恒之
枝折戸に風の来てゐる夜の秋 伊藤 芳子
土用芽の赤や茶色や椿の木 山田 初枝
新築の家に産声雲の峰 小林 れい子
小魚の酢漬の香り暑気払 柴田 惠美子
軍馬像前脚上げて灼けて灼けてをり 太治 都
辛ロのカレーに夏を惜しみけり 大片 紀子
秘仏見に三三五五と日傘かな 廣兼 厚子
水神に生米盛りて原爆忌 長岡 はるみ
降り出しの雨粒はじく袋角 檜垣 惠子
睡蓮やまだ光ある朝の月 村上 勢津子
漏れきたるピアノはショパン銀河濃し 志賀 理子
ぱりぱりとレタスを噛みて大暑かな 古岡 壽美恵
罅割れの畑に響けりはたたがみ 福田 澄代
明易や天井高き父祖の家 林 暁子
令和4年 9月
一葉のはがき反りたる大暑かな (副主宰)鈴木 厚子
大いなる枇杷届きたる誕生日 河野 照子
病む妻の鏡の曇る青嵐 大前 貴之
遠雷や頰に山雨のひとしづく 久保 方子
ハーレーの過ぎて蜜柑の花匂ふ 川口 崇子
ヒロインのやうに現れ錦鯉 内藤 英子
烏瓜の花の形を崩す雨 笹原 郁子
黒々とひかる土なり菊挿芽 梅園 久夫
賽銭の頭上飛び交ふ六千日 井上 千恵子
手術待つ十一階や雲の峰 徳永 絢子
朝焼の湾すべり出づ診療船 濱本 美智子
米蔵に二つ残りし燕の巣 寺田 記代
一つ星またたき烏瓜の花 栗栖 英子
草刈機火花散らせる爆心地 岡本 惠美子
火の神の札貼る窯場栗の花 川口 眞佐子
白粥に藻塩をきかせ沖縄忌 岡田 栄子
鮎寿司や吉野の山河目のあたり 萬代 桂子
加賀獅子のかやに白足袋ぞろぞろと 宮崎 惠美
金箔の剝がれし阿弥陀緑さす 北嶋 八重
盆景の苔に顔出す梅雨きのこ 西村 千鶴子
残鶯の声惜しみなき露天風呂 金子 仁美
茶屋の灯の歪む川面や夕涼み 後藤 かつら
黒南風や流れ藻からむ舫ひ舟 辻江 惠智子
ほうたるを掬へば光るたなごころ 松宮 利秀
豊後牛並ぶ牛舎や草いきれ 渡辺 節子
令和4年 8月
先立ちしあの世はいかが山椒魚(副主宰)鈴木 厚子
笹つかみ羽化の始まる蜻蛉かな 二宮 英子
夏近し見るたび変はる海の色 林 さわ子
河骨や紺屋の前の濠濁り 笹原 郁子
夕立去り物見の松の鴉かな 杉本 尚子
黙々と仏具磨きや走り梅雨 中山 ち江
大樽をあふるる布袋葵かな 新谷 亜紀
竹皮を脱ぐやかすかな音をたて 寺田 記代
母の日や母になりしと子の手紙 今田 舞子
楠若葉石段を猫下りきたる 三上 節子
丹念に撫でつつ鮎を洗ひたる 松永 亜矢
卯の花や手拍子ひびくバレエ塾 長岡 はるみ
大山の雪渓はるあ放ち馬 岡田 栄子
黒牡丹日差しに蘂のゆるびたる 坂口 昌一
なんばんの花のうしろを誰か過ぐ 西村 千鶴子
涼しさや舟から舟へ渡す板 下見 博子
出しぬけに驢馬の疾走麦の秋 今田 昌克
一粒の寄居虫ころげ忘れ潮 大葉 明美
棒立ちの黒穂抜きゆく出雲の子 新本 孝子
雉鳴けり夫と蒟蒻植ゑをれば 溝田 ちどり
廃校のプールに零れ針槐 渡邊 小夜子
大瑠璃の声や水面を滑るごと 斎藤 直子
山城の落石とどむ茂りかな 原 万代
緑蔭へリード引つ張る子犬かな 三村 三和子
ざりがにもどぢやうも跳ねて溝浚へ 世羅 智子
令和4年 7月
春昼や石に乾かす磯草履 (副主宰)鈴木 厚子
花楓前ゆく人の肩へとぶ 永田 由子
たつぷりと入院食の蜆汁 田上 さき子
百済観音テレビに拝す梅雨籠り 水野 征男
明易や今朝一番は鳩の声 河野 照子
待ち合はす人のまだ来ず楡若葉 大前 貴之
桐咲くや背筋正して独り住む 久保 方子
死者生者黙して憩ふ花の中 越桐 三枝子
竹落葉風の意のまま錐揉みす 中野 はつえ
朧なるままに暮れたり塒山 川口 崇子
啄木忌駅のホームを鳩歩き 内藤 英子
石庭の波より波へ蝶飛べり 深海 利代子
子が駈けて舞ひ上がりたる花の塵 秋本 三代子
花冷えや粥一椀の検査食 栗原 愛子
赤き糸張りて石積む朝ざくら 近藤 弘子
二人静挿して乏しき髪を梳く 小林 美成子
入院の夫へメールやさくらの夜 浜田 千代美
家移りへ禰宜下げ来たる桜鯛 小谷 廣子
楠若葉被爆瓦礫を根に抱き 林 さわ子
入江の鵜もぐりて行方しれずなり 藤井 亮子
春濤の一気に攫ふ砂の城 伊藤 芳子
逆立ちをして藻を食める子鮎かな 山田 初枝
をちこちに畦塗る人や米どころ 小林 亮文
荒神の空晴れ晴れと初燕 柴田 惠美子
ふらここの背を押す母の大きな手 天野 桃花
令和4年 6月
初桜少年舟に犬を乗せ (副主宰)鈴木 厚子
啓蟄の足つよく打ちフラメンコ 永田 由子
くれなゐの雲に入りたる帰雁かな 河野 照子
ゆりの木にゆるびのきたる古巣かな 二宮 英子
風折れの竹の匂ひや春の闇 川口 崇子
呉線や汽車が汽車まつ花ふぶき 深海 利代子
海苔歯朶へ競艇場の大音響 藤井 亮子
さわさわと近づく春の時雨かな 古岡 美惠子
離着陸続く彼方や磯遊び 井上 千恵子
種袋ぽんと叩きて蒔き終はり 新谷 亜紀
窓閉ざす音楽堂へ花吹雪 清岡 早苗
冴返る床に乾びし飯の粒 松永 亜矢
声変はりして卒業の返事かな 石井 和子
棒切れで遊ぶ幼な子花の昼 田中 生子
教会の窓埋め残し蔦若葉 山本 逸美
歌舞伎座のはねて銀座へ春ショール 福田 澄代
天職と言ひ目刺売る行商女 中村 育野
春雷や重機の新車祓はるる 原 万代
門出でてすぐなる山や初桜 中岡 ながれ
昭和の名橋に団地に山笑ふ 黒木 隆信
走り根に羅漢の座り竹の秋 山崎 和子
被爆樹を支ふるワイヤ春の雲 鷹野主 政子
入学の子を目で追うて見失ふ 西村 知佳子
錆色の高炉へ桜吹雪かな 岩本 貴志
山門の小さく見ゆる桜かな 内海 英子
令和4年 5月
ロシアウクライナへ侵攻
戦ひのつひにはじまり梅寒し 永田 由子
通信隊跡の草地の鳥の恋 二宮 英子
凍滝のゆるぶ飛沫を浴びにけり 栗原 愛子
金継ぎの古九谷に春立ちにけり 小林 美成子
渋民の啄木の寺菜飯食ぶ 笹原 郁子
思ひきり髪を切りたる梅の風 古岡 美惠子
病室の一人の灯りスイトピー 依田 久代
余寒なほ笹の葉末の擦れ合ふも 新谷 亜紀
拾ふ子の爪より小さき桜貝 濱本 美智子
春立つや手の窪にとる化粧水 寺田 記代
榛の花鏡光りの山の池 栗栖 英子
種牛の乳房に乾く春の泥 清岡 早苗
ほろ酔ひの夫へ自慢の花菜漬 今田 舞子
塒へと列組む鴉山桜 児玉 幸枝
大阿蘇の噴煙はるか厩出し 大片 紀子
高空を飛ぶ鳥見たり半仙戯 水野 菊恵
剪定の脚絆の小鉤光りけり 萬代 桂子
浜焼の貝の鳴きたる磯開 山本 逸美
石段に延敷き詰め一の午 鷹野 早苗
遊学の子の荷を送り冴返る 海野 正男
制服の袖を詰めゐる春隣 宮崎 恵美
一人居の母の北窓開きけり 溝田 ちどり
道ならぬ恋の芝居やうららけし 阪本 節子
末席に家猫座り雛の宴 武田 弘子
梅見茶屋日向に啜る饂飩かな 西向寺 倫子
令和4年 4月
北斎の波の絵を見に初電車 永田 由子
果てしなく歩けさうなり春の虹 河野 照子
冬ざれや糸のほつれし謡本 久保 方子
節分や柿の移植の土匂ひ 二宮 英子
二日はや帰り支度の長子かな 深海 利代子
術後の目かすみしままや虎落笛 秋本 三代子
傷多き組板洗ひ年惜しむ 小谷 廣子
逆波の運河を下る初荷舟 杉本 尚子
武蔵野の雑木揺さぶり春一番 藤戸 紘子
福分けの芹の胡麻和へ香りけり 藤巻 喜美子
上弦の夕月昇るどんどかな 依田 久代
駿府城木々に寒肥振り撒けり 山田 初枝
畳み来る白波砕け初松籟 小林 亮文
餅花の下に赤子の寝息かな 黒田 智彦
段畑の裾へ飛びつく波の花 児玉 幸枝
神鈴を何度も鳴らし厄落し 太治 都
探梅や足元に詩を刻む石 海生 典代
参拝の石段険し冬菫 坂口 昌一
段丘の前も後ろも冬田打 鷹野 ひろえ
穴釣の男の耳輪凍雲 鷹野 早苗
一人居の小さき卓や冬日向 平岡 百合子
枯草の嵩よりゆるり蟇出づる 田口 満枝
寒夕焼遥かに拝す赤き富士 古岡 壽美恵
ご祝儀を咥へて高き獅子頭 本木 紀彰
踏まれたる邪鬼の眼の冴返り 後藤 かつら
令和4年 3月
一輛車切りはなされて雪に消ゆ(副主宰)鈴木 厚子
吉原の街めぐり来て桜鍋 永田 由子
ワンコイン救世軍の大鍋に 越桐 三枝子
小刻みに日向に飛んで冬の蝶 内藤 英子
一連の泳ぎさうなるうるめかな 深海 利代子
返り花女人高野の日だまりに 小谷 廣子
百年の長押の艶や餅の花 荒井 八千代
雲切れて鳥居の上に初日かな 佐瀬 元子
驚きてにはとりの跳ぶ空つ風 栗栖 英子
寒波来る橋の真下の雑魚の群 天野 桃花
寒木瓜の色濃き雨の垣根かな 三上 節子
どの辻も潮の匂ひや松飾 堀向 博子
煮凝の溶けゆく舌へ地酒かな 篠崎 順子
棕櫚の葉を風吹き晒す鍛冶祭 田中 生子
とんど灰潮入川の波に乗り 長岡 はるみ
門付の酒に酔ひたる獅子の舞 岡田 栄子
高らかに宮司の祝詞淑気かな 井上 基子
長病みの喉を潤す寒の水 山田 美佐子
水槽の底より剝がす鮃かな 小川 誉子
籾殻を雀の散らし初箒 山田 智子
町会報立ち木に貼られ年詰まる 本木 紀彰
リュック背に登山帰りのおでん酒 福田 澄代
餅花の影の揺れゐて煎餅屋 阪本 節子
枯菊や谷風強き庭畑 中岡 ながれ
おほかたは気温と農事日記果つ 溝西 澄恵
令和4年 2月
唐突に齢をきかれ海鼠呑む 河野 照子
刺し終へしキルトのベスト暖炉燃ゆ 久保 方子
母の忌の墓に来てゐる笹子かな 内藤 英子
枯葉舞ふ土の匂ひの雨上り 深海 利代子
合羽干す交番勤労感謝の日 近藤 弘子
浦道は断崖に尽き石蕗の花 林 さわ子
冬夕焼使ひへ幼駆け出せり 佐瀬 元子
臥して読む仰臥漫録夜半の冬 太治 都
すこしづつ蕪のシチューを啜る母 松永 亜矢
湖の紅葉明かりへ鯉跳ぬる 篠崎 順子
金木犀匂ふ最中の訃報かな 岡本 恵美子
潮高く押し入る月の港かな 水野 菊恵
ドラム缶囲み牡蠣焼く磯日和 長岡 はるみ
冬うららお結びほどの讃岐富士 山下 邦子
名にし負ふ螺旋階段紅葉宿 度山 紀子
銀杏に酌めり琥珀のウイスキー 海野 正男
枯色の頭回していぼむしり 井上 基子
小島抜け巨船あらはる小六月 下見 博子
瞬きて見失ひたる雪婆 今田 昌克
冬鷗波間の杭に動かざる 斎藤 直子
枯葉舞ふ菅公の碑や遠汽笛 原 万代
割りさしの薪ごろごろと冬に入る 中岡 ながれ
碁会所のガラスの曇り初時雨 山崎 和子
見はるかす海は波立ち帰り花 林 暁子
ひとつづつ横線で消す年用意 西村 知佳子
令和4年 1月
邪鬼を踏む仏と秋を惜しみけり 鈴木 厚子
海見ゆる島の分校蘇鉄の実 永田 由子
穭田や吊られしままの罐二つ 河野 照子
倒しある画架の下よりちちろ虫 川口 崇子
神殿の大幣にふれ冬の蝶 栗原 愛子
堰舐めて水落ちゆくや蓼の花 小林 美成子
一羽づつ天に吸はれて鷹柱 林 さわ子
霜降や倒木朽ちて土となり 藤井 亮子
時雨るるや五百羅漢の中に母 杉本 尚子
一葉落つ古代瓦の窯場跡 佐藤 泰子
秋時雨安房の小店に昼の酒 森 恒之
立冬の茶柱すいと立ちにけり 藤巻 喜美子
教へ子の初物の柿持ち来たる 小林れい子
西行庵柱にけらの穴一つ 濱本 美智子
犬小屋にタオル敷きつめ冬用意 寺田 記代
新藁の匂ふ牛舎の灯りけり 大片 紀子
石州の野を這ふけむり冬に入る 石井 和子
親に寄り山毛欅の実を食む子猿かな 為田 幸治
厩から馬の顔出す草紅葉 宮崎 惠美
石仏の乾ぶ供物や野路の秋 西村 千鶴子
大阿蘇の黒き火山灰(よな)のせ冬菜畑 児玉 明子
直会の一献匂ふ新酒かな 新長 麗子
軒先に雫連なり初時雨 志賀 理子
山を背に稲架解きゐたる親子かな 松井 英智子
藷ふかす土竜の歯形切り落し 加藤 和子
令和3年 12月
九十の姉の荷へ添へ秋桜 鈴木 厚子
蓮の葉のお茶いただきて蓮見かな 永田 由子
恩師みな逝きたる母校いわしぐも 河野 照子
蕎麦の花急に降り出す山の雨 大前 貴之
焼味噌をなめて酌む酒雨月かな 梅園 久夫
木の実降る矢玉のごとく笹を打ち 井上 千恵子
鷺草の飛びたきごとく柄を伸ばし 小林 亮文
赤蜻蛉下校の鐘の流れけり 中山 ち江
放たれて山羊の露けき眼かな 徳永 絢子
小鳥来る被爆地掘れば欠茶碗 児玉 幸枝
生薬の粉付く白衣秋深し 海生 典代
子らの描くへのへのもへの大案山子 中山 章
落し水どの田の水も動きけり 山本 逸美
晩酌のつまみの占地軸太し 鷹野 早苗
独り居の軒に芋茎の二連干し 度山 紀子
山寺や東司の窓へ烏瓜 北嶋 八重
畑のもの刻む厨の良夜かな 安藤 えいじ
月代や屋台の横に杖二本 新本 孝子
かりかりとバケツ搔く亀台風禍 綱木 美年子
大き靴並ぶ裏口虫時雨 平岡 百合子
夫よりもはるかに高き紫苑かな 東田 基子
名月や庭木の影の蹲る 松宮 利秀
そこばくの銀杏を干し御陵守 井浪 千明
働いて銀河の底に眠りけり 西向寺 倫子
被爆地の噴水浴ぶる幼かな 和久田 多惠子
令和3年 11月
鱸来る遠州灘の波に乗り 水野 征男
真つ赤かな日すとんと落ちて芒かな 河野 照子
初潮を菓子箱ほどの渡し舟 大前 貴之
父と子と門火焚きをる駐在所 久保 方子
鳳仙花手籠にふれて弾けけり 越桐 三枝子
竿提げて波止を帰る子秋夕焼 浜田 千代美
絵日傘のぽつくり寺へ入りけり 小谷 廣子
こぼれ萩袋小路の英語塾 荒井 八千代
鬼やんま指に挟んで戻りけり 藤巻 喜美子
瓜坊の急に現れ霧ぶすま 依田 久代
小机を置きて二人の月見かな 山田 初枝
理髪師の窓に無聊や花カンナ 木村 浩子
島の宿菊の膾に菊見酒 児玉 幸枝
浦日和空に弾けて臭木の実 田中 生子
廃船の鉄骨あらは小鳥来る 岡田 栄子
秋蟬やワクチン接種受くる間も 鷹野 早苗
残さずに食べきる人とゐて涼し 山岸 昭子
薄皮を引いて白桃啜けり 安藤 えいじ
絶筆の母の写経や蟬しぐれ 大葉 明美
膝揃へすするすいとん終戦日 福田 澄代
野葡萄の屋根より垂るる水車小屋 中村 育野
露天湯のぬばたまの闇虫の声 後藤 かつら
葛咲くや出で湯の町に人を見ず 辻江 惠智子
道に出て子を見送りぬ葛の花 中岡 ながれ
ハミングの近づいて来る霧の中 西村 知佳子
令和3年 10月
被爆樹の洞の湿りや土用の芽 鈴木 厚子(副主宰)
鉄線や龍馬のながきながき文 永田 由子
沖に降る雨きらきらと花梯梧 大前 貴之
月涼し木の葉を辷る雨の粒 川口 崇子
黒き羽根一本拾ひ夏の果 内藤 英子
深吉野の大緑蔭を早瀬かな 小谷 廣子
大伽藍庇の下の金魚売 杉本 尚子
トロ箱の角に縋りて蟬の殻 佐藤 泰子
芳ばしき初の枝豆夫にかな 藤巻 喜美子
踏みゆける砂たよりなき晩夏かな 伊藤 芳子
コロナ禍の町より戻り髪洗ふ 山田 初枝
鉄路沿ひ葦に昼顔からみ咲き 小林 れい子
夏の蝶ひらり電車に入りたる 佐瀬 元子
黒揚羽大海原へ舞ひ上がる 福江 ちえり
けもの径草より飛べる油蟬 徳永 絢子
籐椅子の艶めき父の遠忌かな 木村 浩子
朝涼の畑のをちこち人の影 三上 節子
草取の夫の大きな背中かな 松永 亜矢
潮風をたつぷり浴びし髪洗ふ 廣兼 厚子
廃校の門の飯桐実の垂るる 坂口 昌一
雷鳴や椅子に居眠る夫の顔 望月 満理
蚊遣火の香の染みつきし野良着かな 鷹野 早苗
退院の荷物二つや蟬時雨 福田 澄代
包丁を念入りに研ぐ大暑かな 迫 美代子
つぎつぎと子の触れてゆく含羞草 林 暁子
令和3年 9月
鐘を撞く一打一打に蓮の白 鈴木 厚子(副主宰)
青梅雨や一本立ちに鶴眠り 永田 由子
夕焼や川につけある鍬二本 河野 照子
爆心の地の夕ぐれを蜻蛉かな 井上 久枝
壁をほろほろこぼれ烏麦 二宮 英子
花火師の闇に一礼花火果つ麦 近藤 弘子
秋や牛舎に隣る干拓碑 林 さわ子
雀の子庭のはつかな土を浴ぶ 笹原 郁子
童顔の僧のまざりて夏安居 杉本 尚子
片蔭を分かち接種を待ちゐたる 古岡 美惠子
畑のもの手籠にもらひ露凉し 新谷 亜紀
亡き母の植ゑし鉄線白ばかり 黒田 智彦
大振りのワイングラスに目高飼ふ 濱本 美智子
藺座布団干して母の忌迎へけり 太治 都
梅雨空を傘引き摺りて下校の子 山田 由美子
葛水や屋根に石置く峠茶屋 大片 紀子
朝蟬の声の底ひや学徒の碑 岡本 惠美子
虫めがね持ちて駆くる子風薫る 水野 菊恵
時国家上時国家苔の花 海野 正男
でで虫や葉裏に隠れ角を出す 井上 基子
引き潮にひきこまれたる海月かな 下見 博子
川面から母屋の方へ螢飛ぶ 溝田 ちどり
花合歓や瀬音はげしき川分かれ 新長 麗子
棒振虫木立の甕に浮き沈む 田口 満枝
折り取りて片手に余る夏蕨 渡辺 節子
令和3年 8月
護摩焚の煙をかむり蟻地獄 鈴木 厚子(副主宰)
暮れ方の庭木のそよぎ冷奴 河野 照子
亡き母の日傘をさして姉来たる 越桐 三枝子
晩年や赤き椅子選る梅雨晴間 二宮 英子
蝙蝠の翼ひらひらスタジアム 内藤 英子
縞蛇の横切るを待つ湯殿みち 栗原 愛子
ダービーの日のアカペラの国歌かな 小林 美成子
露地売りの栄螺に朝の通り雨 林 さわ子
葉桜や母上様と筆の遺書 藤井 亮子
大蟻の引き摺る飴の包み紙 新谷 亜紀
蚕豆の莢の個室の綿毛かな 寺田 記代
潮風や夫と分け合ひ氷菓食ぶ 今田 舞子
山嶺の雲脱ぐ速さ更衣 木村 浩子
莢豆のすぢ取りをれば日照雨 太治 都
久々の大き姿見更衣 長岡 はるみ
梅雨の蝶たどたどしくも川渡る 山下 邦子
何蒔くや芒種の畑に人の影 山岸 昭子
オンライン授業に吊るす金魚玉 海野 正男
梅雨湿り書棚に匂ふ正露丸 西村 千鶴子
夏暁や先づ検温と血圧と 山田 美佐子
逃ぐる蛾を追うて雀は宙返り 今田 昌克
軍手して大釜の茶を揉みにけり 溝田 ちどり
代掻きや威を張り進むトラクター 生田 章子
花かんば山の牛舎の赤き屋 福江 真里子
蔓引けば睨みてゐたり蟇 松宮 利秀
令和3年 7月号
どの田にも水走り込み鯉幟 鈴木 厚子(副主宰)
土の色変はるまで打つ春田かな 大前 貴之
帯締めてぽんと叩いて夏に入る 久保 方子
五月来ぬ針のやうなる魚走り 深海 利代子
地震跡のころがる鉢に牡丹の芽 杉本 尚子
犬公方の寺のをちこち猫の恋 井上 千恵子
草餅の草色の染み臼の底 森 恒之
糸檜葉に八十八夜の雨雫 荒井 八千代
独活の香や厨の隅に神祀る 依田 久代
じやがいもの花や川風うねり来る 伊藤 芳子
干潮の岩を這ひをる寄居虫(がうな)かな 福江 ちえり
山桜木造駅の時計鳴り 天野 桃花
寺町の路地を曲れり白日傘 三上 節子
職ひける夫のつむりへ飛花落花 篠崎 順子
山桜より明け初むる漁師町 為田 幸治
開け放つ古書店匂ふ薄暑かな 中川 章
行く春や傾ぎて歩む鳩の夫 望月 満理
庭石と同じ色なる蛙かな 鷹野 ひろえ
若葉風白髪八分の髪を切り 鷹野 早苗
差し潮に出合ひ崩るる花筏 大葉 明美
會遊の能登の古刹や遅桜 辻江 惠智子
ハングライダー若葉の風をとらへたり 原 万代
むかし来し村に来てゐる桜かな 中岡 ながれ
野良着継ぐ雨の八十八夜かな 溝西 澄恵
宮島の峰を遠くに巣立鳥 西向寺 倫子
令和3年 6月号
土石流ゆきし湯治場不如帰 水野 征男
喇叭水仙羽ある虫の出てきたる 二宮 英子
一菜の苦きもの添へ春の膳 中野 はつえ
被爆土手雀隠れとなりゐたり 川口 崇子
一人にも夕餉の支度菜種梅雨 秋本 三代子
水口にひとかたまりの子持鮒 栗原 愛子
ふんばりて湖岸に楤の一芽かく 小谷 廣子
末黒野へ雨きらきらと来りけり 梅園 久夫
天水に水浴ぶ雀春深む 古岡 美惠子
ふるさとの海雲に散らす針生姜 藤巻 喜美子
七七忌名残の花に雨つのる 佐瀬 元子
春暁や病む夫の管長々と 清岡 早苗
春の雲被爆ドームの足場解く 住岡 公子
小さき木に囲ひしてをり花の雨 海生 典代
教会のステンドグラス暮遅し 度山 紀子
畦の火へ棒持つ女向かひ立つ 山岸 昭子
横笛の歌口ねぶり花の宴 下見 博子
学校の鶏の高鳴く朝桜 大原 恵子
砂浜に子供遊ばす春日傘 平岡 百合子
沈丁花垣の内より匂ひけり 市村 英樹
肩張つてボス猫らしや春田道 福田 澄代
芳しき草に落ちたる髪飾 中岡 ながれ
固まりて動かぬ牛や牧開 武田 弘子
鮊子を焙り手酌の昼の酒 黒木 隆信
身籠りて腹に手を添へ青き踏む 迫 美代子
令和3年 5月号
神棚へ米蒸す湯気や寒造 永田 由子
水草をしだきて鯉の産卵す 水野 征男
春立つや京の土産に亀束子 中野 はつえ
寝返りの枕の温み春の雨 秋本 三代子
結界の幣ちぎれとぶ春吹雪 栗原 愛子
笹舟を翻弄したる春の水 笹原 郁子
砂粒に紛ふ花種蒔きにけり 山田 初枝
見えねども土盛り上がる蕗の薹 小林 亮文
立雛飾り独りの夕餉かな 濱本 美智子
一輪のたんぽぽに日のいつまでも 寺田 記代
卒業子馬の鬣撫でてをり 清岡 早苗
梅東風や吹かれて長き巫女の髪 源 伸枝
亀鳴くやコロナ予防の大マスク 児玉 幸枝
藍染を晒す流れや水草生ふ 大片 紀子
風花や馬の首筋脈打ちて 堀向 博子
春の蠅新幹線の中を飛ぶ 松永 亜矢
錫色の辛夷の花芽尖りたり 田中 生子
雛の間の赤子の寝息しづかなり 川口 眞佐子
芽起しの雨音もなく壁伝ふ 下見 博子
春立つやいななき駆くる岬馬 高橋 努
シーソーの窪みに光る薄氷 新本 孝子
断崖の裂け目に落ちし山椿 新長 麗子
耳並べ手の平ほどの春子かな 小川 誉子
寒明の堆肥にレーキ深く刺し 本木 紀彰
荷卸しの高きクレーン春霞 福田 澄代
令和3年 4月号
寒鮠を干す燐家(となりや)や子だくさん 鈴木 厚子(副主宰)
年賀客酔へばいつもの木曾節よ 永田 由子
ふり向きしとき紅梅の匂ひけり 大前 貴之
厄除けやどんどの灰を門に撒き 久保 方子
裸木を描く鉛筆の擦過音 小林 美成子
春節や息赤きまで灯を連ね 林 さわ子
水槽を猫覗きこむ春隣 藤井 亮子
蕗の薹三つ摘み来て夕餉とす 上原 カツミ
寒鰤の胴丸々と競始め 小林 亮文
青空の映る運河に潜る鴨 佐瀬 元子
雪しまき防災無線切れぎれに 新谷 亜紀
お元日猫がしきりに顔を拭く 黒田 智彦
風花を仰ぐ幼の口ゆるび 濱本 美智子
年の瀬や念入りに拭く床柱 今田 舞子
一筋の草嚙んでゐる氷柱かな 源 伸枝
国引きの海の暗さや水仙花 木村 浩子
掃き寄せし物を啄む寒雀 児玉 幸枝
河豚刺を箸にからめ食うてをり 松永 亜矢
紅梅へ白梅へこの空の青 岡本 惠美子
鵯鳴きて湖は雪野となりにけり 為田 幸治
窓開けて吹奏楽部寒ざらへ 中川 章
薄氷を跨ぐ子割る子登校す 本多 静枝
寒月や棚田張りつく瀬戸小島 下見 博子
濡れながら鴉の漁る冬干潟 児玉 明子
凍裂の檜山杉山谺して 村上 勢津子
令和3年 3月号
日の当たる今年の橋を渡りけり 河野 照子
ひろびろと一人占めなる初電車 越桐 三枝子
椅子に乗り電球変ふる六日かな 二宮 英子
芽の太き慈姑の瑠璃に年立てり 川口 崇子
子の声の群がつてゆく若葉道 深海 利代子
天城路の深き轍や猟期来る 小林 美成子
お降りや宮の砲弾いたく錆び 浜田 千代美
行平の注ぎ口の灰汁若菜粥 藤戸 紘子
湯屋の窓さらさらと鳴り雪来る 福江 ちえり
枯野から汀へ続き獣径 徳永 絢子
初しぐれ島から島へ日の移り 木村 浩子
眼鏡拭きテレビを拭きて年用意 太治 都
往診の白衣に重ね革コート 篠崎 順子
一献は仏に供へ年始酒 山下 邦子
雪しまく藪から藪へ群雀 為田 幸治
飴色の歳時記匂ふ冬日向 中川 章
桐筥に姫君あまた歌かるた 萬代 桂子
葉牡丹へ硝子戸越しの朝日かな 海野 正男
川底を手搔きで掬ふ瀬田蜆 安藤 えいじ
年新た夫の書斎に灯を点し 西村 千鶴子
初明り仏壇の茶の薄みどり 大葉 明美
青年の沖を見てゐる懐手 吉野 順子
亡き夫に遍路宿より賀状来る 山田 智子
松迎背戸より大き父の声 林 暁子
令和3年 2月号
潮満ちて昼の虫なく小松原 永田 由子
寒林に石油掘りたる井戸の跡 水野 征男
ひと呼吸おいて眉かく年の暮 河野 照子
病棟に一灯点る寒夜かな 井上 久枝
月を見て一人飲みをり玉子酒 大前 幸子
流れつつ澄む泥水や池普請 大前 貴之
仇討ちのごと落葉搔く一日かな 久保 方子
しぐれ来て手話の会話のとぎれけり 越桐 三枝子
笹鳴の影さへ見せず遠ざかる 二宮 英子
一水の瀬音に神の山眠る 中野 はつえ
雲あひの空のかち色冬めけり 川口 崇子
一茶忌やいつも雀の集まる木 内藤 英子
朴落葉駆けぬけてゆく木橋かな 深海 利代子
花八手喪中はがきの重なり来 秋本 三代子
木乃伊寺鐘撞堂の冬囲 栗原 愛子
箒目を崩さぬほどの時雨かな 近藤 弘子
わが一句載りし暦も果てにけり 小林 美成子
妻を恋ふ兄の話しや室の花 浜田 千代美
朝霧のしづくの光大極殿 小谷 廣子
上りては下る街並初時雨 林 さわ子
冬の寺金の弥勒の大きな手 藤井 亮子
人工の浜にころがる寒蜆 杉本 尚子
黒富士の浮かぶ東京冬夕焼 古岡 美惠子
新しき土竜の塚や梅早し 井上 千恵子
時雨忌に続き母の忌従兄弟の忌 上原 カツミ
令和3年 1月号
寒流の響く村越化石句碑 水野 征男
去来忌の茶席を抜ける早稲の風 中野 はつえ
牡蠣筏男を乗せて暮れゆけり 内藤 英子
初紅葉芭蕉の馬で越えし径 栗原 愛子
黒文字の秋芽の匂ふ御師の門 井上 千恵子
擬宝珠の秋芽の揃ひうすみどり 森 恒之
銀杏を沈め今宵の茶碗蒸し 伊藤 芳子
綿棒で花びら直す菊師かな 山田 初枝
川尻に鯉のひしめき草の花 柴田 惠美子
朝寒や片足立ちで穿けぬもの 秋本 三代子
柿照るや島の薬師のご開帳 大方 紀子
日の差して鏡の奥に石蕗の花 三上 節子
県北の駅に立ちたる豊の秋 松永 亜矢
風折れの松の枝切る鵙日和 藤井 亮子
高西風に船泣くごとく軋みけり 浜田 千代美
職人の父の搔込むおじやかな 中川 章
寝落ちたる子のてのひらに栗一つ 新谷 亜紀
門徒衆集ひ薪割る文化の日 今田 舞子
黄落や幼の鳴らす帯の鈴 山田 美佐子
秋日濃き方へと移り太公望 山本 逸美
日溜りの遠くなりゆく法師蟬 松宮 利秀
ついそこの川で鯊釣る夫の秋 中岡 ながれ
菊花展寺の裏より鶏の声 馬木 芳子
頼旧居二畳の書斎実南天 平岡 貴美子
しばらくは仏間開けおく十三夜 内海 英子
令和2年 12月号
石鹸のにほひ手にある良夜かな 河野 照子
川上に霧たちこめて軍馬の碑 井上 久枝
海擦つて群れ飛ぶ鷗秋夕焼 久保 方子
夕支度黄色の菊を酢に浸し 越桐 三枝子
盆僧の白き鼻緒やうす埃 中野 はつえ
庭下駄を足でさぐれり虫の中 深海 利代子
金冠のミリの研磨や秋ともし 森 恒之
旧姓を彫りし包丁柿を剝く 藤巻 喜美子
新涼や岩から岩へ水折れて 黒田 智彦
大川の直なる果てや鰯雲 秋本 三代子
大蘇鉄大き葉影の良夜かな 太治 都
冬瓜の溝に座りて太りたる 山田 由美子
人肌の匂ひありけり鶏頭花 天野 桃花
宵闇や汐上り来る波の音 三上 節子
音もなく亀泳ぎをり夕月夜 海生 典代
白百合のなだれ咲きけり浜の風 福江 ちえり
冬瓜の透きて煮上がる夕餉かな 北嶋 八重
人の死を悼みて戻る野分あと 今田 舞子
新聞を継ぎ足し包む山の芋 山下 邦子
栗落つる音に目覚むる朝かな 生田 章子
生身魂ナースキャップに手をひかれ 田子 カンナ
台風圏線路ぎはまで波頭 馬木 芳子
休眠の畑に波打ち猫じやらし 黒木 隆信
バス停は村の三叉路カンナ燃ゆ 林 暁子
小鳥来る窓に包帯干されあり 西向寺 倫子
令和2年 11月号
屋上に北斗を仰ぐ洗ひ髪 永田 由子
神の留守守りし恵比須に酒二合 水野 征男
小鳥来る木立の中に座しをれば 河野 照子
初秋刀魚こんがり焼けて一人の餉 井上 久枝
シャンソンを流して夫の魂迎へ 久保 方子
水引草影ともいへぬ影を引き 笹原 郁子
雨脚に光ありけり稲の花 黒田 智彦
残る虫灯を消してより賑はヘり 寺田 記代
庫裡裏の漬物石へ鬼やんま 清岡 早苗
コロナ禍に日はうかと過ぎ秋の声 太治 都
鉛筆の転がり落ちる夜半の秋 山田 由美子
砂の山波のさらふや星涼し 川口 眞佐子
安曇野は稲の花どき風匂ふ 中川 章
墓みちの落し文とて解かずをり 山岸 昭子
水着の子包める白きタォルかな 福江 ちえり
庭花火果てて白煙闇に這ふ 長岡 はるみ
稲光仕舞ひ忘れし三輪車 小川 誉子
学校を囲む稲穂の白ひかな 山下 邦子
葛の葉の丸ごと出小屋覆ひけり 萬代 桂子
里の田に塩辛とんぼ睦み飛ぶ 渡邉 小夜子
水口に小鮒跳ねたり落し水 村上 勢津子
秋夕焼大温室の窓高し 林 暁子
傍らに猫座りゐる夜長かな 西向寺 倫子
かあさんと夫呼ぶ声か虫の夜 山田 智子
金秋や嬰児を胸に里帰り 田口 満枝
令和2年 10月号
迎え火や遠白波のつぎつぎと 河野 照子
新しき杖を曳きゆく路地の秋 越桐 三枝子
走り来る雨脚見ゆる晩夏かな 川口 崇子
出水あと鰻を拾ふ道の上 近藤 弘子
吟詠の椅子は切株蟬時雨 上原 カツミ
夜濯の竿の水着に山の風 依田 久代
柚子坊の枝ごと折りて日焼の子 徳永 詢子
橋くぐる川瀬に秋の気配かな 寺田 記代
八月や杓文字に乾ぶ御飯粒 栗栖 英子
粗炊きの目玉こぼるる溽暑かな 木村 浩子
濁流の泥に呑まるる青田かな 石井 和子
削氷を崩す向かうに被爆川 篠崎 順子
火砕流跡の校舎へ梅雨の蝶 林 さわ子
わだつみの鳥居は朽ちて青岬 古岡 美恵子
散水機回る甘藍畑かな 鷹野 ひろえ
鮎一尾うるか少々酒二合 海野 正男
子雀の蚯蚓引き合ふ影もつれ 大葉 明美
慰霊碑に竹の皮脱ぐ月夜かな 坂口 昌一
梅雨寒や畳に残る椅子の跡 福田 澄代
今朝の秋糠床しかと息づきて 辻江 恵智子
煮豆屋の羽目板の反り梅雨長し 西村 千鶴子
捨てきれぬ文学全集黴匂ふ 井上 基子
梅雨雲の閉ざす最上の川下り 下見 博子
原つぱの三角ベース夏蓬 髙橋 努
崖崩れ山椒魚の這ひ出せり 鷹野主 政子
令和2年 9月号
瑠璃色の鵜の眼かがやく日の盛り 永田 由子
夏帽子一列に来る並び来る 河野 照子
紫陽花へ雨だれの音つづきけり 大前 幸子
仔鯨の墓を岬に花蜜柑 大前 貴之
井戸端の胡瓜の花の開きけり 二宮 英子
潮風や括りの粗き大茅の輪 笹原 郁子
産卵の泡の中なる青蛙 栗原 愛子
古里の湯殿に残る浮いてこい 杉本 尚子
流れ藻へだぼ鯊群るる佃堀 井上 千恵子
梅の実の熟れて落つるや池の底 山田 初枝
夏山を二つに割りて土砂崩れ 田中 忠夫
置き変ふる鉢の下より縞蚯蚓 木村 浩子
手の甲に残る疵あと原爆忌 児玉 幸枝
誘蛾灯命の爆ぜる音のして 大片 紀子
夏風邪の子のすすりたるかけうどん 松永 亜矢
五寸釘ほどの百足虫が夜具の上 浜田 千代美
入道雲白き灯台呑み込めり 本多 静枝
川原へと歩む宿下駄螢の夜 間野 映子
元禄の池や蛙の声したり 田中 生子
湯上りの髪拭きをれば時鳥 松本 恵和
鹿の子の跳ねゐる櫟林かな 岡田 栄子
帰省子の土産お守り札一つ 小杉 郁子
新築の礎石を走る青蚯蚓 松井 英智子
暗き水摑みあめんぼ雨催 金子 仁美
滝壺の底を真横に這ふ木の根 黒木 隆信
令和2年 8月号
改札を出るたび仰ぐ燕の子 永田 由子
梅雨晴や使ひ馴れたる椅子に居り 藤江 駿吉
葉隠れににじむ街灯走り梅雨 河野 照子
踏みしむる土の黒さや原爆忌 井上 久枝
遠き日の手紙など裂き日永し 越桐 三枝子
反芻の牛が尾を振る草いきれ 杉本 尚子
明易しラジオにコロナの患者数 藤巻 喜美子
ごみ袋溝に挟まれ梅雨出水 小林 亮文
大鯉の鰭打つ岸辺杜若 小谷 廣子
泰山木咲くや眼下に潜水艦 黒田 智彦
長病みの長き髪切る夏初め 清岡 早苗
一人棲む庭に真赤な蛇苺 児玉 幸枝
菊挿して夫の一日の暮れにけり 大片 紀子
蟻塚をよけてジョギングしてゐたり 松永 亜矢
水漬きたる舟にこぼるる桜かな 檜垣 惠子
白南風にひらく一人の握り飯 林 さわ子
濡れ縁の日の斑にはらり夏落葉 本多 静枝
節々に縋りて竹の皮乾び 今田 舞子
蝌蚪群れて田の面乱るるひとところ 今田 昌克
甘酒に披講の声の淀みなし 長岡 はるみ
新茶揉む母の仕草をまねて揉む 小川 誉子
雉の子の群れて駆けだす葎かな 為田 幸治
郵便受底に張りつき雨蛙 馬木 芳子
小魚を酢にしめ卯の花曇かな 中村 いつみ
寺町の路地を飛びけり夏燕 林 暁子
令和2年 7月号
ばらの香をマスク外して深く吸ふ 永田 由子
山梔子の花の錆びたり薬学部 水野 征男
米二合洗ふ卯の花腐しかな 河野 照子
猫の髭つくづく長しチューリップ 川口 崇子
菜の花や潮目膨れて藍深む 梅園 久夫
鰆鮨頰張りし目へ波上がる 森 恒之
ジーンズの腰に馴染めり茶摘籠 伊藤 芳子
節々の鳴り春愁のストレッチ 徳永 詢子
海に沿ふ一本道を飛燕かな 濱本 美智子
板の間に米粒拾ふ昭和の日 秋本 三代子
横たはる巨木の下を春の水 芦田 一枝
桜の葉きちんと畳み落し文 太治 都
アイロンを滑らす白衣薄暑光 海生 典代
掬ふ掌に跳べる川えびみどりの日 石井 和子
羽搏きに溢れさうなる雛つばめ 新宅 良子
倶利伽羅や旅籠の跡の山桜 福江 ちえり
石垣の桜蕊掃く竹箒 新谷 亜紀
髪にまだ残る湯の香や明易し 源 伸枝
ベランダに摘む不揃ひの苺かな 山田 美佐子
岩屑の尾根に駒草風走る 児玉 明子
春昼や茶会へ開く大手門 大葉 明美
川蟹の出入り忙しき破れ蛇籠 西村 千鶴子
夏近し磯の香強き須磨の浦 井上 基子
島便り添へて大きな桜鯛 村上 勢津子
金盞花バケツいつぱい届きたり 山田 智子
令和2年 6月号
木葉木菟鳴くや千枚田の日暮 水野 征男
立てかけし櫂のしづくや花の昼 河野 照子
つむじ風たてて山火の起ちあがる 大前 貴之
拭き上げし招き看板風光る 久保 方子
初花の寺に抹茶のみどりかな 越桐 三枝子
浜小屋の戸板に売れる栄螺かな 二宮 英子
花冷や握りばさみの鈴が鳴り 神田 美穂子
大奥でありしところの春の蕗 近藤 弘子
仏具みな磨きて春を籠りけり 小林 美成子
涅槃西風背開きに干す魚かな 柴田 惠美子
姿なき物に怯ゆる四月かな 栗栖 英子
啓蟄や重機の爪の土乾び 清岡 早苗
花冷や干潟を渡る鹿の列 芦田 一枝
日の匂ひ藁の匂ひや蝶生るる 岡本 惠美子
発電の風車の唸り花かんば 福江 ちえり
紅梅の花びらひらり脱衣籠 新谷 亜紀
岩山を行く雲の影躑躅燃ゆ 児玉 明子
藁縄の音して乾き干鰈 平岡 百合子
栄螺焼き隠岐の潮をこぼしけり 萬代 桂子
神木の裂けし根方に蟻出づる 坂口 昌一
一斗缶干す豆腐屋や朝燕 高橋 努
清明や百閒廊下走り拭く 村上 勢津子
山笑ふ連絡船の擦れ違ひ 山崎 和子
退院の夫の一歩へ春の風 山田 智子
谷間に七戸の家や桃の花 渡辺 節子
令和2年 5月号
竹籠のナイフの光鳥雲に 河野 照子
ひろしまの空青々と蝶の昼 井上 久枝
雛段に女盛りの官女かな 大前 幸子
出漁の顔触れ揃ふ焚火かな 中野 はつえ
風光る木立を鳥の移るたび 川口 崇子
鷦鷯(みそさざい)岩木嶺を雲離れゆき 笹原 郁子
刃物選る馴染の露店一の午 近藤 弘子
転がして掃くとりどりの落椿 徳永 詢子
猫抱けば草の匂ひや春隣 黒田 智彦
梅真白少年院へ続く道 寺田 記代
春光の網繕うてゐたりけり 芦田 一枝
病室のベッドに足湯春の雪 木村 浩子
ふらここの少女二人の長き足 松永 亜矢
蜥蜴出て腹暖むる石の上 水野 菊恵
竹籤を削る夫婦や夕永し 浜田 千代美
海光のあまねき街へ初燕 林 さわ子
マネキンの肌へ滑らす春ショール 古岡 美惠子
捨藁を押し上げあまた名草の芽 本多 静枝
鏑矢の楼門越ゆる追儺かな 北嶋 八重
茶が咲いて遠き島々晴れ渡る 田中 生子
土筆摘む指の力を少し抜き 新本 孝子
湾に入る真夜のタンカー冴返る 為田 幸治
冬夕焼ホームにシャドーボクシング 中村 育野
金色の招き猫買ふ午祭 鷹野 早苗
虎口より入ればあまたの落椿 一村 葵生
令和2年 4月号
ひたひたと夜のくる飾納かな 河野 照子
笹鳴や島の畑に立つ煙 井上 久枝
マラソンへ山より上る冬花火 越桐 三枝子
餅花や高い高いを喜ぶ児 中野 はつえ
髪にふれ春の霙をなりしかな 内藤 英子
古書括る主へ雪のちらちらと 井上 千恵子
寄生木の梢の上や雪解富士 藤巻 喜美子
ナフタリン吊す箪笥や春支度 依田 久代
迎春やレジのうしろの招き猫 小谷 廣子
元旦の空ま二つに飛行機雲 田中 忠夫
左義長の雨にちぎるる炎かな 藤井 亮子
どんど焼鷺の塒を照らしけり 浜田 千代美
ブラウスを縫ひ上げ春を待ちにけり 古岡 恵美子
患者食菜飯のみどりまぶしけれ 海野 正男
暗闇の焚火に映る人の影 今田 昌克
宮島の牡蠣ぷつくりと飯の上 広兼 厚子
春泥の大地踏みしめ牛立てり 岡田 栄子
灰神楽浴びてどんどの餅を焼く 小川 誉子
鶚(みさご)鳴く沖に切立ち金華山 為田 幸治
福寿草開く気配の朝日かな 中村 育野
冬終はる薬袋を捻り捨て 鷹野 早苗
大寒や濤立ち上がる奈古の海 生田 章子
春隣靴の散らばる珠算塾 後藤 かつら
笹鳴やざざと溢るる露天の湯 西村 千鶴子
かんなぎの胸元かたく着衣始 下見 博子
令和2年 3月号
ぽんと二羽ぶつかりあうて初雀 河野 照子
下北の海に灯の無き年酒かな 井上 久枝
声荒く漁夫と漁夫との御慶かな 久保 方子
北へ行く巨船が一つ去年今年 近藤 弘子
雪解川雪立ち上がり流れくる 杉本 尚子
海鼠浮く灯台下の潮溜り 伊藤 芳子
インバネスひらひらと駅出で来たる 山田 初枝
石蕗の句碑銀杏落葉の只中に 佐瀬 元子
永らへて五年日記を買ひにけり 徳永 詢子
金粉の踊る年酒を受けにけり 寺田 記代
鹿の糞こぼれ艶めく恵方道 木村 浩子
餅搗くや頭のタオル締めなほし 山田 由美子
父祖の代の梁くろぐろと嫁が君 大片 紀子
薬擂るやうに大根擂りゐたり 海生 典代
力入れ夫の背洗ふ寒の入 川口 眞佐子
徹句碑に置く焼藷とカップ酒 浜田 千代美
仏飯を下げて茶漬に大三十日 中川 章
鉛筆を吊し窯場の新暦 源 伸枝
二日早や御手洗川に鹿の顔 田中 生子
竹筒の酒を賜る年女 長岡 はるみ
冬ざれや野川細りて音もなき 山下 邦子
凍蝶のかなたに大き仏の手 山本 逸美
逆光をくる綿虫のうすみどり 青木 陽子
耳袋かけ門衛の敬礼す 林 暁子
初東風や港に止まる郵便車 山田 智子
令和2年 2月号
見上げても朴の木はなく朴落葉 永田 由子
浅春の水子の後生祈る鐘 水野 征男
落葉降る大嘗宮へいざなはれ 越桐 三枝子
暗がりに傷の匂へる榠樝の実 二宮 英子
竹林の騒ぐ北窓閉ざしけり 川口 崇子
白壁の続く酒蔵実むらさき 梅園 久夫
蒲の穂の傾ぎて絮を飛ばしたる 佐藤 泰子
大根の皮に豪雨の傷の跡 上原 カツミ
椅子固き鮪糶場の飯屋かな 森 恒之
警官に鞄覗かれゐて師走 小林 美成子
暗闇の村のをちこち干大根 小林 亮文
花石蕗や向きを替へては達磨干す 黒田 智彦
木枯や窓にくつきり子の指紋 濱本 美智子
大口を開け歳晩の歯科にをり 堀向 博子
くしやくしやの顔で泣く子や冬林檎 松永 亜矢
指先へ翅震はせて雪螢 藤戸 紘子
母の忌や厨に刻む菊膾 荒井 八千代
大根引く小さき農婦の大きな手 鷹野 ひろえ
墓終ひ読経流るる小春かな 度山 紀子
銀杏の土打つて香を散らしけり 福江 ちえり
冬りんご深く刃を入れレノンの忌 岡田 栄子
千切れ雲浮かぶ稜線冬ざるる 松井 英智子
地を掻きて地鶏の沈み秋深し 金子 仁美
極月や金の盃磨き上げ 村上 勢津子
初時雨遠嶺の遠くなりにけり 西向寺 倫子